なぜ「テーマ」と「仮説」でつまずくのか
探究学習において、「テーマは決めたのに、仮説が思い浮かばない」という悩みは非常に多く見られます。こうした停滞は、思考の流れが分断される要因となり、探究全体の進行に影響を及ぼすこともあります。
原因の多くは、テーマと仮説の間にある論理の飛躍や認識の曖昧さにあります。仮説の立て方がわからないというよりも、視点や情報が頭の中できちんと整理されておらず、問いが言語化されていない状態だと言えるでしょう。したがって、最初に必要なのは、自分の思考がどの段階で止まっているのかに気づき、停滞の要因を見極めることです。
問いと仮説の関係性が理解されにくい背景
テーマを設定すると、それだけでひとまず満足してしまうことがあります。けれども、「なぜこのテーマに関心を持ったのか」「どこに納得できない点があったのか」といった視点をあらかじめ明確にしておかなければ、次の段階で問いや仮説を構築する際に混乱が生じます。
たとえば「SNSとの付き合い方を探究する」と決めたとしても、「何が問題と感じているのか」「どのような状況に疑問を持ったのか」が曖昧なままでは、情報収集も浅くなりがちです。仮説を立てるには、テーマの中で注目すべき観点や焦点を具体化し、思考を絞り込んでいくことが不可欠です。
思考を深める3つの問い
仮説の内容は、「何が気になっているのか」によって大きく変わります。たとえば、同じ「SNSとの付き合い方」というテーマでも、次のような問いによって切り口が異なります。
- SNSは人間関係にどんな影響を与えているのか?
- 「既読スルー」はストレスの原因になっていないか?
- SNSの使い方に、学校や家庭のルールは必要なのか?
- 情報発信の習慣は、自己認識にどのような変化をもたらすのか?
このように、自分の関心や違和感を問いの形に言語化することで、「仮にこうかもしれない」と考えるための土台が整います。仮説とは、問いに対して自分なりの見立てを立てる作業です。問いが不明確なまま仮説を立てようとすると、調査の方向が曖昧になり、何を調べるべきかが見えてきません。まずは、自分がどこに引っかかっているのかを把握し、それを問いとして表現することが、仮説づくりの第一歩となります。
仮説は“仮の見立て”として位置づける
仮説は最初から正しい必要はありません。むしろ、「仮にこうではないか」という見立てを起点に、そこから検証していくプロセスこそが探究です。正解を出すことを目指すのではなく、まずは問いを深めたり修正したりしながら思考を進めていく視点が求められます。
「何を確かめたいのか」「どこが腑に落ちないのか」を自分の言葉で整理することができれば、探究は着々と動き出します。この段階では完成された答え(結論)を考えるのではなく、次の一歩を踏み出すための仮の答え(仮定)と考えることで、思考の流れがスムーズになります。
自分の問いを見つけるための問いかけ
問いや仮説の出発点は、何気ない日常の中に潜んでいます。特に、自分だけが引っかかった小さな違和感や、説明のつかないモヤモヤ感は、思考を深める重要なきっかけとなります。そのため、以下のような問いかけを自分に向けてみると、思考の方向性や軸が見えてきます。
- 納得できなかった経験はあるか?
- そのとき「なぜこうなっているのか」と感じたか?
- 他の人は気にしていないけれど、自分はなぜか気になったことは?
- SNSやニュースで「本当にそうなのか?」と疑問に思ったことは?
これらの感覚に目を向けることで、自分がどのような価値観や視点を持っているのかが少しずつ浮かび上がってきます。さらに、それを言語化しようとする過程で、漠然とした関心が具体的な問いのカタチを持ち始めます。
関心が弱いならテーマを見直してみる
「テーマはあるけれど、あまり興味が持てない」「言葉にはしたけれど、深く探究する気になれない」と感じる場合もあります。そのような時は、無理に仮説を立てようとせず、関心そのものを見直すことが有効です。関心の希薄さは、探究の持続性を損なう原因にもなります。
- 最近気になった出来事は?
- どんな場面で不満や疑問を感じたか?
- 「もっとこうだったらいいのに」と思った経験は?
- よく人と話すテーマは何か?
これらの問いは、自分の中にある自然な関心をすくい上げるための手がかりになります。特別な準備や知識がなくても、自らの感覚を言葉にしていく中で、何に惹かれ、どのような場面で疑問を抱くのかといった意識が徐々に明らかになっていきます。
仮説は完成形ではなく、進むための手がかり
探究の出発点は、明確な目的や答えではなく、自分の中にある曖昧な関心です。輪郭のはっきりしない問いを言葉にしながら、その背景にある違和感や気づきを丁寧にたどっていくことで、学びの方向が見えてきます。このようにして立ち上がった問いに対して立てる仮説は、あくまで“仮の答え”にすぎません。思考を前に進めるための仮置きであり、調査や対話を通じて見直しや修正が繰り返されていくものです。問いと仮説を行き来する中で、新たな視点が生まれ、探究は次の段階へと展開していきます。
結論を急がず、曖昧なものを曖昧なまま捉える姿勢が、結果として深い理解や発見につながっていくのです。
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